世界へ
「ILLEGAL OFFENSE」と名付けられた
そのフリーペーパーを、
宗くんは福岡の展覧会でも、
そして東京に帰ってきてからも配り続けた。
そしてそれが、80年代の音楽シーンに
多大な功績を残したプロデューサー、
K氏の目に留まり、
宗くんとぼくはK氏に会うことになった。
音楽だけでなく、新しいメディアとして
メッセージを打ち出した
Tシャツやフリーペーパーを
始めようとしていたK氏は、
ぼくの絵をTシャツや
フリーペーパーに使いたいと言う。
彼の事務所での打ち合わせも終わって、
帰ろうとしたぼくに、K氏は
「間違いなくボクが君を
世界に羽ばたかせてあげるよ」と
自信たっぷりにうなずきながら言った。
部屋を出て、夢見心地でK氏の言葉を噛みしめながら
廊下を歩いていたぼくは、遠くの方から聞こえる
「久保くーん」という呼び声にふと我に返った。
振り向くと、事務所からアシスタントの人が
追いかけて来ている。
忘れ物でもしたかなと思っていると、
「あの人は来る人みんなにああ言ってるけど、
大きいことを言うのが仕事みたいなもんだから、
あんまり期待しないほうがいいよ」
とだけ耳元でささやき、
足早に事務所に戻っていった。
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